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■ Re-Birth (1) ■
「やめろ! そいつに何をする気だ!!」
スネークの怒鳴り声で眼が覚める。ぼんやりとした視界。彼は上半身を裸にされ、*(アスタリスク)型の拘束台に四肢を引き伸ばすように固定されていた。首には小さなパネルやランプのついた、分厚い銀の首枷。
────首輪爆弾!?
一気に全身が覚醒するのと同時に、手首に鈍い痛みを感じる。手足の自由が利かない。左右の手首と足首が、それぞれ黒く分厚い拘束具で繋がれていた。しかも、悪趣味にも全裸にされている。首には───スネークのものと良く似た首枷。金属ばかりの無機質な部屋。俺の傍にソリダス、スネークの傍にオセロット、周囲には他に敵兵4人。
「スネークはともかく───この小僧の正体が掴めません。ゲノム情報も調べましたが、正体が掴めません。NSA、CIA、FBI……どこのデータベースにも存在しません。存在しない機関ならぬ、存在しない男です」
オセロットの報告に、俺自身が一番驚いた。
馬鹿な。俺が───存在しない、だって? いくらFOXHOUONDが隠密部隊と言っても、各種IDだって持っている。所属はともかく、軍に籍はある筈だった。それとも任務開始前に、俺には無断で全ての記録が抹消されたのか?
「だろうな……。だが私は、この小僧を知っている」
「ご存知で?」
「ああ。久しぶりだな。切り裂きジャック………大きくなった。───私を、覚えているよな?」
ソリダスはまるで旧友を見るような目で俺を見つめた。わけが判らない。
「…!? 何の事だ?」
「ふむ────」
強化装甲の触手が突然、俺の頭を掴んだ。触手の先から更に小さな触手が現れ、こめかみや後頭部をまさぐっていたかと思うと、いきなり電撃が発せられる。
「…っぁ、が…っ…ぁ……!」
「……大量の脳内移植機械(インプラント)───奴らに記憶もいじられたか……それとも自分で封印したか……」
「っ、やめろ! そいつは奴等に利用されていただけの新兵だ! 奴等の事も俺たちの事も、何も知っちゃいない!」
独り言のように呟きながら電撃を続けるソリダスに、スネークが怒鳴り声を上げる。奴はようやく触手を俺の頭から離すと、傲然と言い放った。
「ふん。だろうな。だが私が気に入らんのは、まぁ奴等に利用されていたこともだが、この小僧がお前のような男に惹かれている事だ」
俺達はソリダスの予想外の言葉にとっさに視線を合わせた。スネークは単純にただ驚いているようだったが、俺は心の何処かでギクリと見透かされた気がした。そんな筈、ある訳もないのに。
「…!? 一体何を……? 勘違いするな、そいつにはちゃんと恋人が……ローズとか言う────」
「鈍い奴だ。どうせその女、奴等が差し向けた小僧の監視役だろう」
「───何?」
「そもそも、その女は実在するのか?」
ソリダスは俺の方に向き直ると、意味不明な質問をしてきた。
「────当たり前だ。出会った日の事だって、昨日の様に覚えている」
憮然として答える俺を揶揄う様に、ソリダスは質問を続ける。
「ほぅ。ではその女と、初めてセックスした時の事は覚えているか?」
「え──────?」
何も思い出せなくて、下卑た質問に憤るのも忘れ、俺は焦った。頭の中がチリチリする。「肉体関係のあるステディな恋人」という記憶は確かにあるのに、最初の時はいつ、どこで、どんな風にしたのかと考えると、モヤモヤして何も映像が浮かんでこなかった。
それによく考えてみれば、出会いの記憶からして何か妙だ。人ごみの嫌いな俺が、どうしてあんな観光客だらけの所に居たのか? 映画でも見に行ったのか? だとしたら何の映画を? 通行人に声を掛けられてもいつも無視する俺が、何故自分からローズに声を掛けたのか?
子供が車に撥ねられそうだとか、強盗に老人が襲われているとかならともかく、彼女は観光客のくだらない質問に困っていただけ。何も危険なことはないのに、声など掛ける訳がない。考えれば考えるほど、頭痛が激しくなった。赤い光が、頭の中で激しく点滅している。
「───ふん、やはりな。お前が女とのセックスで満足出来る訳がない。いや、そもそも女とセックス出来る訳がないのだ。お前は男に犯されることでしか快感を得られない──────私がお前を、そういう風に育てたのだから」
「…な…にを……バカな────!」
「残念だよ、ジャック────人の殺し方も男の悦ばせ方も、あれだけ仕込んでやったというのに。この私を忘れるとは」
ソリダスは大袈裟に溜息をつくと、ニヤリと笑って俺たちを見下ろした。
「まあ良い。我々には、お前達に訊きたい事など無い。情報は我々の方が、遥かに多く握っているからな」
「なら何を───」
「いわばこれはコミュニケーション……いや、報復かな。散々、我々の計画の邪魔をしてくれた、御礼をしなければな」
ソリダスの触手が、俺の身体を壁へと薙ぎ払う。その動きは緩慢に見えたが、衝撃は重く、大きかった。俺は全裸で脚を広げた無様な格好のまま、骨に響くような苦痛に呻いた。
「…っおい、やめろ! 嬲りたいなら、俺を好きにすればいいだろう!」
一瞬また気を失いかけた耳に、血相を変えてスネークが怒鳴るのが聞こえた。
「スネーク。貴様のような男は、己の肉体に加えられた苦痛にはとても強い。拷問しても無駄だろう。だが、仲間が―――しかも自分を慕っている者が目の前でいたぶられたら? しかもお前を助けるためにだ。貴様にそれが耐えられるかな?」
「…っ!?」
「シャドーモセスでは、貴様には色々とやってもらう事があった。その為に多少、手を抜かざるを得なかったが―――途中で死なれたりしては、元も子もなかったからな。だが、今回は違う。たっぷりと苦しんでもらうぞ」
残虐な笑みを浮かべてソリダスが告げる。スネークはギリギリと歯を噛み鳴らしてその顔を睨み付けた。
「……貴、様ァ――!」
「いい瞳だ。せいぜい己の非力を嘆くが良い」
「さて────」
こちらに向き直るとソリダスは、乱暴に俺の顎を掴んで顔を上げさせる。俺は気圧されない様に必死に、奴を睨みつけた。
「────俺達をどうする気だ」
「それはお前次第だ、ジャック」
「……どういうことだ?」
「スネークは───この世にスネークは、私一人で充分だ。だがお前の脳には、まだ利用価値がある。生死はどうでも良いがな」
「つまり────二人とも、殺すってことか」
「殺すだけなら、とっくにそうしている。だがお前の人殺しの腕と、男を悦ばせる身体は少しばかり惜しい」
「…っ!?」
さっきから、こいつは何を言ってるんだ? 身体? 男を悦ばせる、だって?
「お前がスネークを始末するなら、命だけは助けてやっても良い」
「──────断る」
俺が、スネークを、殺す? 考えただけで寒気がした。きっぱりと拒絶した俺を、ソリダスは嘲笑った。
「───ふん、やはり。お前、あの男に惚れているな? あんな甘い男に」
「……違う。貴様らの言いなりになんか、ならない」
「まあ良い。奴の処刑までに少しばかり、時間をやろう。猶予はお前が奴の目の前で、我々全員を満足させるまでだ。このアーセナルにいるすべての人間をな」
「な…っ…!?」
俺に娼婦の真似事をしろとでも言うのか? 女顔のせいか、今までそういう類の冗談を言われたことは何度かある。二度とそんな下品な言葉を口に出来ないように、完膚なきまでにぶちのめしてきたが───このアーセナルにいる人間すべて―――気の遠くなるような人数に違いなかった。それに何よりスネークの―――スネークの目の前でだけは、そんな醜態を晒したくなかった。
あまりの要求に呆然としている俺に、スネークが声を上げる。
「…っ、雷電、こんな奴等の言うことに耳を貸すんじゃない! 俺はどうせ始末される、俺を殺してお前だけでも生き延びろ!」
「少し黙っていろ、スネーク。キングと小僧が話しているのだ。お前に話す権利はない」
オセロットが残忍な笑みを浮かべて、傍らのワゴンのトレイから鈍く光る何かを取り上げた。それは―――長さが50センチもありそうな巨大な針だった。剥き出しになったスネークの上半身を十字を切るようにその先端でなぞり、最後にそれを肩口で止める。
「…っぐ!…ぅ…ぉ…ぉ……っ…!」
「先を丸めてあるからきついだろう? どうだ?」
グイッ、グイッと抉り込むように、太く長大な針が頑丈な筋肉を纏ったスネークの肩を貫いていく。全身を強張らせながらも、彼は殆ど声も出さずにその苦痛に耐えていた。やがて血に塗れた先端が、背中側の皮膚を押し破って姿を現す。
「まだまだ、これで終わりではないぞ?」
オセロットは酔い痴れた様に声を上ずらせて、その針の前後に電極を取り付けた。新しい玩具に逸る子供の表情で、パネルのスイッチを入れる。
「っぐ、がああぁああああぁっ―――――――!」
両目をカッと見開き、彼はとうとう激しい苦悶の声を迸らせた。殆ど動かせない筈の身体が、一瞬大きく跳ね上がったように見えた。貫かれた部分が黒く変色し、ぶすぶすと煙が上がる。生きたまま体内を焼かれる――――想像を絶する苦痛に違いなかった。
「どうだ? 身体の中から焼かれる気分は?」
スイッチを切りながら、オセロットが勝ち誇ったようにヒステリックな笑いを漏らす。噴き出す脂汗に塗れたスネークは見るからに息も絶え絶えで、声も出せないようだった。
「…っ、やめろ、やめてくれ!! スネーク! スネェェーク!!」
あまりのことに凍りついたように動けなかった俺はようやく我に返って、彼の元に近寄ろうと必死で藻掻いた。だが俺の首枷を掴んでいるソリダスの強化装甲の触手は、ビクともしない。
「落ち着けジャック。この程度で死ぬような男ではない」
「その通り。ちゃんと急所は外してある。傷口を焼くから出血も少ない。何本刺したところで出血多量にはならんよ。そんなにすぐに殺してしまったのでは、面白くないからな」
「だが、何度もとなると、奴の心臓の方がもたんのではないか?」
「ええ。電気というのはその辺が厄介でして」
まるで何かの実験でもしているように言葉を交わした二人は、ちらりと俺に視線を向けた。
「さあ、どうする? ジャック。もう少し考えるか?」
「では、こっちをもう一本といきますか。私としてはその方がいい」
「そうだな」
楽しげな微笑を浮かべて拷問台の操作パネルの上に並べた針を手に取るオセロットに、ソリダスが鷹揚に頷く。
「ま、待ってくれ!」
「ダメだ。時間切れだ」
「待て! やめろぉぉぉっ!!!」
喚き足掻く俺を尻目に、今度はスネークの反対側の太腿に針が突き通された。身につけたままのズボンの太腿が半分ほども焼け焦げ、変色して、さっきよりも大きな煙が上がる。見ていられなかった。しかし顎を掴まれ瞼を引き上げられて、眼を逸らすことも目を瞑ることも許されなかった。肉の焦げる嫌な臭いが部屋中に立ち込める。スネークの抑えきれない苦悶の声が、鼓膜を震わせる。
――――俺にはもう、堪えられなかった。
「……わかった――――わかったから、もうやめてくれ――――!」
わななく唇から言葉を押し出した。ショックと悔しさで滲む涙を堪える。
「―――俺に、スネークは殺せない。俺を好きにしてくれ―――頼む…………」
「ほう。そんなにあの男が大事か。『切り裂きジャック』とも『白い悪魔』とも呼ばれたお前がな――――残念だよ、ジャック」
「…よ、せ……雷電…っ…俺に…構うな……!」
ゼイゼイと肩で息をしていたスネークが口を挟むと、横にいた敵兵が彼の顎をP90の銃床で殴りつけた。
「……が…っ…!」
「スネーク!!」
スネークの側ににじり寄ろうとするのを、ソリダスの触手に阻まれる。
「―――やめておけ。そいつが気を失ってしまっては、せっかくの見世物が台無しになる」
ソリダスが片手を上げて制すると、敵兵は敬礼して一歩後ろに下がった。安堵する間もなく、奴の前に膝立ちに顔を据えられる。ソリダスの黒く染まった、邪悪な蛇のような雄の器官。
「咥えろ。喉の奥までな――――懐かしさで何か、思い出すかも知れんぞ?」
「……っ…!」
饐えた男の臭いがムッと鼻に付く。思わず唇を噛みしばって顔を背けるのを許さず、万力のような力で触手に顎と首とを締め上げられた。骨がミシミシと軋み、肺が空気を求めて泡立つ。
「………ぅ、……っぐ…ぐぅ…う……っ……」
「ジャック。あまり強情を張っていると、顎の骨が砕けるぞ? それとも、顎を外してやろうか?」
「………っが、は…っ! ……っ、ぐ!…ぉご……ぐ、ぅう…ぅっ……!」
とうとう開かされた唇に、無理やり蛇の鎌首のようなそれを捻じ込まれた時、何かが頭の中で弾けた。俺は無意識に顎を少し引き、舌を下顎に押し付けて喉を開いて、半ば飲み込むようにして奥の方までそれを迎え入れた。反射的に込み上げる嘔吐を、鳩尾に力を入れて必死に抑え込む。ソリダスが満足そうに嗤った。
「やはりな。記憶は消されても、身体で覚えたことは忘れんようだ。ディープ・スロートなど、教えられてもなかなか、出来るものではないぞ?」
そのまま触手に頭ごと揺り動かされ、口腔といわず喉といわず抉り回される。声を出すことも、息をすることすら難しかった。俺はきつく眼を瞑り、えずきそうになるのを堪えて、ひたすらそれが過ぎ去るのを待つしかなかった。
─────ああ。確かにこの感覚には、覚えがある。
この匂い、息苦しさ、喉を異物に抉られる痛み、嘔吐感。
頭の中で小さな破裂音がする度、消し去った筈の子供の頃の記憶が蘇ってくる。そうだ、確かに────俺はこの男を知っている。戦闘で疲れ切った小さな身体を、毎晩のように開かされた。男を悦ばせられる身体になれと、色々なことを無理やり、教え込まれた─────。
「………っあ、が…っは…っ!」
酸欠で気が遠くなりかけた頃、漸く開放されて俺はそのまま崩れるように倒れ、大きく口を開けたまま空気を貪った。無理に大きく開かされた唇の端や、抉られた喉が痛みを訴えていたが、そんなことを構っている余裕は無かった。
「さて、ではそろそろ御開帳とするか」
「…な、何を───やめろ! 離せ!」
ソリダスは俺の首枷を掴んで上半身を起こさせると、巨大な触手で両膝を抱え上げ、スネークの拘束台へと歩み寄って行く。ちょうど幼児が排泄をするような格好をさせられて、俺は脚をバタつかせてもがいた。
「ふむ。『無駄な抵抗をして体力を消耗するな』とも、教えた筈だが。それも忘れたか?」
「っ…うるさい! 離せ! 嫌だ、離せ!」
大きく脚を開いた状態で、スネークの目の前にすべてを晒される。前も、後ろも。彼の息がかかるほど近くで、恥ずかしい部分を、全部。無駄だと判ってはいても、足掻かずにはいられなかった。
そんな俺を嘲笑うように、ソリダスは俺の左脇から顔を出し、右手で尻肉のあわいを押し開いてまじまじと覗き込んだ。
「ほう。あの頃のままの綺麗な色だ。見るが良い、スネーク。この可憐な窄まりが、数多くの男たちを悦ばせてきたのだ。貴様も味わってみたいとは思わないか?」
「─────お前らは全員、腐ってる」
スネークの強い否定の言葉に安堵するのと同時に、胸の奥にチリリと小さな痛みが走る。彼がそんな男でないのは嬉しかったが、自分の存在すら否定されたようで少し切なかった。そんな気持ちを見透かしたように、ソリダスが俺の脇腹を宥めるように撫で回す。虫唾が走った。
「憐れなものだ。たった一人、待ち続けた男に袖にされるとは」
「…っ…さっきから、何を根拠にそんなデタラメ……!」
「何だ、私が気付いていないとでも思っていたのか? 私に可愛がられて気を失う時はいつも、此奴の名を呼んでいたぞ。あの頃『スネーク』を名乗っていたのは、『ソリッド・スネーク』ただ一人。大方、此奴なら私を倒せるとでも思っていたのだろう?」
図星を指されて、俺は唇を噛んで俯いた。
「スネーク。せめて舌でほぐす位の事はしてやると良い。壊れてしまっては、後の楽しみがなくなってしまうからな」
つまり、壊してでも犯すということか。
俺は臍を噛む思いでソリダスを睨み付けた。まさか自分と同じDNAを持つ男に、こんな性癖があるとは。しかもどうやら子供の頃の雷電に、酷い性的虐待を繰り返していたらしい。
『愛国者達』に利用されていたとはいえ、雷電は元々、俺たちの闘いに巻き込まれた被害者のようなものだ。俺がコイツを餌にアーセナルに潜入しようとしなければ、あのままプラントにいて、無事に軍に回収されていた事だろう。それで幸福になれるかどうかは疑問だが、少なくともこんな目には遭わなかった筈だ。今更、許してくれなどとは言えないが、せめて苦痛を和らげる位の事はしてやらなければ。
時間稼ぎ、という意味もある。可能性は限りなく低いが、何時何どき、天災や外部からの攻撃、機器の故障など、不測の事態が起こらないとも限らない。まだ影響は出ていないようだが、エマのワームがすべて無駄になったと結論付けるには早すぎる。せっかく、下らない優越感から時間を浪費してくれるというのだから、利用しない手はない。
幸い、というのもおかしいが、男との経験がない訳ではない。若い頃、「何事も実践だ」と言って、色々とやらされた。ビッグ・ボスは戦闘一辺倒の人だったが、彼の周囲はそうじゃなかった。敵に拿捕された工作員は殺されるか、廃人にされるか、篭絡されるかだからと、来る日も来る日も拷問されたり、薬漬けにされた時期もあった。
そんな中で、女は勿論、男も様々なタイプを経験させられた。感想としては「女とやってる時のことを思い出せば、やれないこともないな」と言った程度で、やはり自分は女の方が良いと結論付けて、それっきり忘れていたのだが。
目を閉じ、ひとつ深呼吸をして覚悟を決める。
「──────わかった。もう少し、近づけてやってくれ」
俺の言葉にソリダスは馬鹿にしたように鼻を鳴らし、一歩こちらへ近づいてきた。雷電の膝を抱え上げた触手を更に蠢かせ、拘束台の肩口に足首を掛けさせる。触れ合うほど近くに、恥辱にわななく白い肌。
「……う…そ……! ……嫌だ、やめてくれ、スネーク!」
雷電は殆ど動かせない身体を必死に揺さぶって、悲痛な声を上げた。嫌なのは判るが、後のことを思えば我慢してもらうしかない。何しろこいつらは、雷電の身体のことなど毛ほども気に掛けていないのだから。ろくに解しもせずに力任せに挿入されては、内部に取り返しの付かない傷が出来てしまうかもしれない。
そこはソリダスの言った通り本当に綺麗な桜色で、顔立ちと同様に少し小造りで楚々とした佇まいをしている。まるで開くのを待つ花のようだ。体毛もかなり薄い為に、無垢な子供の局部のような印象を受ける。とても無理やり多くの経験を積まされてきたとは思えなかった。
よくもまあこんな、いたいけな蕾を嬲ろうなどと思いつくものだ。いや────戦場の狂気の中では、人は美しい物、可憐な物ほど壊したくなるのかも知れないが。
舌を伸ばしてそっとそこに触れさせると、雷電はビクリと身を竦ませた。蟻の門渡りから始めて周囲から中心部へ。表面の皺を一つ一つ辿るように、丹念に時間を掛けて。
「…あ、あ、いや、いやだ、やめ、て…っ…」
啜り泣きのような声で訴えながら、雷電が弱弱しく首を振る。全身をきつく強張らせているので、一番ほぐしてやりたい部分になかなか舌先を入れることが出来ない。
「───雷電…」
『…おい、雷電』
『…っ、スネーク? 頼む、やめてくれ!』
突然スネークから入ったCALLに、俺は泣きそうになりながら訴えた。彼は困ったような声で、俺を嗜める。
『落ち着いて、ちょっと力を抜け。それじゃ中まで入らない』
『……嫌だ。アンタにこんなこと、させられない…!』
『だが、そのままであんなモン入れられたら、壊れるぞ』
『────いっそ、その方が良い……』
そうすれば、二度と辱められる事はない。本気でそう思った。
『馬鹿な事を言うな! それに───これは時間稼ぎでもある』
自暴自棄になりかけた俺を怒鳴りつけた後、スネークは声を潜めて、静かに言い含めるように続けた。
『…時間、稼ぎ?』
『エマのワームは効くのに時間が掛かっているだけかも知れんし、いつ、どんな風に状況が変わらんとも限らん。とにかくダメージを最小限に抑えて、体力を温存するんだ。辛いのは判るが………堪えてくれ。────いいな?』
『…………判った』
諄々と諭されて、俺は頷くしかなかった。ぎこちなく深呼吸して、指先にまで篭っていた力を何とか緩めていく。スネークの舌が又、敏感な部分に這わされる。
「…ぁ…ぁ…っ…ん…ぅ……」
「ん? 随分と大人しくなったな。やっと覚悟を決めたか。それとも───体内通信で、恋しいスネークに何か言われたか? まあ良い」
ソリダスの嘲笑うような揶揄。それよりも、スネークの舌の感触を無視する方が、俺には困難だった。気にしないようにすればするほど、逆に意識が集中してしまう。熱く柔らかいざらざらとした舌先が、労わるように慰めるようにゆっくりと、硬く閉じられた俺の肉をほぐしていく。
「…ぁ、ぅ…ん…っ…ぁ……」
スネークは首に筋が浮かぶほど舌を伸ばして、舌全部を俺の内部にまで差し入れた。繰り返し、唾液を送り込んでくる。堪らなかった。どうせならもっと投げやりに、仕方なくやっているようにして欲しかった。こんなに優しくされたら、まるで恋人にされているような錯覚に陥ってしまう。それとも───彼はいつでも、誰にでもこんな風に優しくするのだろうか?
彼が誰かを抱いているところを想像すると、胸が痛かった。
「───ふむ。そろそろ良かろう」
ソリダスが俺たちの身体を引き離したとき、俺のそこは自分でも判るくらい、トロトロになってしまっていた。
「待て。前は、してやらなくて良いのか?」
「必要ない。この小僧は『後ろ』だけでイクように調教してある。見るがいい」
奴の指摘どおり、俺の淫茎は既に硬く勃ち上がって、滴を零し始めていた。
そうしてそこにソリダスの熱く猛るものがあてがわれた時、何かが頭の中に強烈にフラッシュバックした。封印された、何か忌まわしいもの。おぼろげに蘇りかけていたものが、一気に鮮明な映像と音声を伴って脳の中に充満する。泣き叫ぶ子供。赤と黒に染まった記憶。
スネークが丹念にほぐしてくれたお陰か、それとも昔、散々に教え込まれたせいなのか。肉が軋み、痛みを伴いつつも、俺の身体はソリダスのモノをじわじわと受け入れていった。
「…ひ…ぃっ! ……ぁ……ぅ…っ……く……!」
奴は指一つ動かさず、触手で掴んだ俺の身体だけを、空中で前後左右に動かす。初めはただ、抉じ開けられる苦痛しかなかった。それが何度も何度も内部を擦り上げられている内に、段々と別のものへと変質していく。
「…っ、ぅ……ふ……っ…! ……ぅ……ぅうぅ…っ…」
必死に声を殺そうとしても、突き上げられる度、噛み締めた唇の間から呻きが漏れた。忘れたはずのおぞましい快感が全身を這い上がってくる。触れられてもいない肉茎が、ヒクヒクと震え始めた。
「ふん。体の方は私を覚えているようだな。まあ、あれだけ仕込んでやったのだから当然か」
俺は必死で自分の肩に頬を押付けるほど、顔を背けた。スネークにこんな顔、見られたくない。スネークを見たくない。きっと彼は、軽蔑しているに違いない――――男に無理矢理に開かれて、それでも反応しているこの身体を。
「何をそんなに羞じらう? 部隊みんなの、オモチャだったお前が」
─────そうだ。いつでも、どこでも、誰とでも。応じるしかなかった。そうしなければ後でもっと、痛くて辛くて恥ずかしい目に遭わされた。
「そう、確かお前はこの辺りが好きだったな?」
「…ひっ!……っあ!……あ!……やぁあ…っ!」
弱い所を突き壊すような勢いで責められて、とうとう声を殺すことが出来なくなった。心に反して身体だけが、無理やりに絶頂へと追い上げられていく。
───初めて『伝説の傭兵』の噂を聞いたのは、幾つの時だったろう?
最初は単純に『凄い』と思った。それから、彼ならば自分を助けてくれるのではないかと、いや、きっと彼にしか自分を助けることは出来ないと思った。
何とかして彼に会いたい。会えばきっと、救ってくれる。
一体どんな人だろう。
どんな顔をしてるんだろう?
どんな声をしてるんだろう?
どんな瞳をしてるんだろう?
どんな風に────俺を、抱くのだろう?
会いたい。会いたい。会いたい────…。
それはまるで信仰のように─────恋のように。
通常であればそれは、英雄(ヒーロー)に対する少年期の一時的な熱狂で済んだのかもしれない。だが奪われ歪められた少年期が、普通に終われる筈もなかった。
『生き延びて、スネークに会いたい』
それだけが、地獄のような日々を生き残る糧だった。
それなのに──────まさか、こんな事になるなんて。
「随分中がうねってきたな。そろそろイキそうなんだろう? さあ、ジャック。愛しい男にお前のイイ顔を見せてやると良い」
「…っあ、嫌、嫌だ…っ! 見、ないで……見ない、で…っ…!」
さっき俺がソリダスにされたように、オセロットがスネークの顎と瞼を押さえてこちらを向かせている。手を伸ばせば届くほどの距離に、彼がいる。スネークは俺の言葉に必死で視線を逸らせようとしてくれていたが、そんなことをしても視界に入ってしまうのは明らかだった。
「い、いや…い、っや…っ…やぁああぁあああぁ──────っ!」
絶望と同時に、空しい絶頂がやってくる。どっと涙が溢れた。全身を強張らせて果てた俺の中にドクドクと、憎い男の精が流し込まれる。何年ぶりかのそのどろりとした感触は暗澹とした泥のように、俺の心を暗く塗り潰していった。
(Re-Birth(2)に続く)